新進気鋭の作曲家、ベンジャミン・ウォルフィッシュの緻密な編曲が光る『ハリケーンアワー』の音楽

hours

ポール・ウォーカーが無人の病院で発電機のハンドルを回し続けて奮闘する、
限定空間型サバイバル・スリラー『ハリケーンアワー』(13)。
音楽はイギリス人の若手作曲家ベンジャミン・ウォルフィッシュが手掛けております。

インディペンデント映画のサントラの面白さは、
あまり有名でない(あるいはブレイク前の)作曲家の仕事が楽しめること。
ウォルフィッシュの場合は後者にあたるミュージシャン。
最近だとブライアン・コックス主演のUK産脱獄映画『DATSUGOKU-脱獄-』(08)の音楽を担当してます。
入り組んだ物語構成と、UKを代表する演技派俳優のアンサンブルが実に見応えある作品でした。
音楽的にもかなり面白いアレンジを聞かせているので、個人的にオススメです。

 

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パイプオルガンの響きに「神」を見た… クリフ・マルチネス作曲『オンリー・ゴッド』の音楽のこと

only god forgives

『Only God Forgives』(13)という原題が、
どうしてForgivesを省いて『オンリー・ゴッド』になってしまったのか。
『プレステージ』(06)の没タイトル『イリュージョンVS』に匹敵する、
英文法的にちょっとおかしい「ブツ切り系」の邦題に久々に遭遇した気がする。
まぁ強引に解釈するなら、
原題は「神のみが許したもう」的なニュアンスで”赦し”を強調したもの。
一方、邦題は「唯一神」的な意味合いを強くしたのかなと。
で、その「神」に相当するのが鉄面皮のチャンさんという事なのでしょう。

それにしても、いろんな意味ですごい映画だった…。
チャンさんが俺様ルールで悪党(罪人)を「処刑」する度に、
「残虐行為手当」とか、
「なさけ むよう」とか、
「FATALITY」と字幕が出るんじゃないかという気分になりました。
(分かる人には分かる表現かと)

ライアン・ゴズリング主演×ニコラス・ウィンディング・レフン監督
『ドライヴ』のコンビが映画の既成概念を破壊する――

そんなキャッチコピーの方が合ってるかもしれません。
『ドライヴ』のノリを期待すると「何じゃこりゃ」と面食らう事必至ですので。

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追悼フィリップ・シーモア・ホフマン/マイケル・ダナ名作選:『カポーティ』(05)

capote

今週は別なネタを書くつもりでしたが、
フィリップ・シーモア・ホフマンの訃報を聞き、
どうしても書きたいこと出来てしまったので予定を変更しました。

『ケルティック・ロマンス』のアーティスト、
マイケル・ダナ&ジェフ・ダナのフィルモグラフィーを振り返る不定期連載企画。
今回はマイケルの作品から、
ホフマンが作家トルーマン・カポーティを演じてアカデミー賞最優秀主演男優賞に輝いた実録ドラマ、
『カポーティ』(05)のサウンドトラックをご紹介します。

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『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』のサントラでマイク・パットンの音楽を味わい尽くす

the place beyond the pines

■デレク・シアンフランス監督によるライナーノーツ
(注:かなり大雑把な訳です)

90年代前半、ティーンエイジャーだった僕は、ミスター・バングルのライブでデンバーのゴシック・シアターにいた。
兄が彼らの1stアルバムをクリスマスに買ってくれて以来、車の中でアルバムを聴かない日はないほどだった。
ステージではバンドメンバー全員がマスクを被って演奏していて、まるでフェリーニ映画の中で自動車事故に遭ったような気分になった。
シンガーのマイク・パットンは、ボンデージマスクと馬の遮眼帯を身につけていた。
アラン・パーソンズ・プロジェクトのTIMEのカヴァーを演奏していた時、パットンはおもむろに跪いたかと思ったら、
セキュリティの男のハゲ頭を舐めてセレナーデを聞かせ始めた。
その時からマイク・パットンは僕のヒーロー、そしてアイドルになったのだ。

 

「鬼才(奇才)」「変態」と言われているマイク・パットンに贈る言葉として、恐らくこれ以上の賛辞はないのではないでしょうか。
サントラ盤には監督のライナーノーツが寄稿される事がありますが、
「○○は素晴らしい才能の持ち主だ」とか、
「彼の音楽は素晴らしい」というような、
至ってフツーのコメントが多かったりします。
そんな中、『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』(13)のサントラに寄稿したデレク・シアンフランス監督のライナーノーツがこれですよ。
パットンの変態的ステージパフォーマンスにあえて言及して、しかも「その光景を見て以来、彼は自分のヒーローになった」と断言するセンス。
この人は本当にマイク・パットンが好きなんだなーと伝わってくる素晴らしいライナーノーツです。単なるお世辞なんじゃありません。
シアンフランス監督が筋金入りのパットン・ファンだという事が分かるアツい文章です。

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『The Statement』のサントラ盤(ノーマンド・コーベイル氏を偲んで)

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ノーマンド・コーベイルと言っても、よほどのサントラマニアでなければ「この人誰?」という感じかもしれません。
しかも”サントラマニア”といっても、「ゴールドスミスやモリコーネのレア盤発掘に余念がない人」というより、B級映画のあまり有名ではない作曲家もくまなくチェックするタイプの人。

ノーマンド・コーベイルはカナダ人の作曲家で、代表作はトミー・リー・ジョーンズの『ダブル・ジョパディー』(99)や、ウェズリー・スナイプスの『アート・オブ・ウォー』(00)など。ロバート・カーライルがヒットラーを演じたTV映画『ヒットラー』(03)の音楽も手掛けてます。
クリスチャン・デュゲイ監督作品の常連作曲家として、B級映画の音楽に箔をつけるような佳作・力作スコアを作曲していましたが、去年の今頃の時期(2013年1月25日)に亡くなられてしまいました。

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