マイケル・ダナ名作選 / サーフズ・アップ (2007)

surfs up

『ケルティック・ロマンス』のアーティスト、マイケル・ダナ&ジェフ・ダナのフィルモグラフィーを振り返る不定期連載企画。今回はマイケルの作品から、CGアニメ映画『サーフズ・アップ』(07)をご紹介します。

サーフィン大会で優勝を狙う青年ペンギン・コディ(声:シャイア・ラブーフ)とその仲間たち、そして伝説のプロサーファー”ビッグZ”(声:ジェフ・ブリッジス)とのユルいドラマをドキュメンタリー番組タッチで描いたアニメ。

マイケル・ダナといえば、アトム・エゴヤンとかアン・リーのようなシリアスドラマ専門の映画音楽家という印象だったので、「マイケルがペンギンアニメの音楽をやるの?」と当時かなり意外に思ったもんです。

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『ザ・ファン』のサントラを補完してみる

the fan

故トニー・スコット監督が「野球の事を全然知らない(興味がない)」のに撮ったというメジャーリーグを舞台にしたサイコ・サスペンス映画『ザ・ファン』(96)。

ロバート・デ・ニーロがうだつの上がらないナイフのセールスマン、ギル・レナード、「黒い中学生」ウェズリー・スナイプスが高給取りのメジャーリーガー、ボビー・レイバーンを演じてます。デ・ニーロがナイフのセールスマンというだけでまず恐い。「ファンはどうでもいい」という”いかにも”な発言をカマすスター選手をイヤミに演じたスナイプスもいい芝居してます。巷の評価はイマイチっぽいですが、僕はこの映画結構好きです。

ボビーの口八丁なエージェント役のジョン・レグイザモ、ボビーのライバル選手プリモ役のベニチオ・デル・トロ、姉御チックなスポーツ記者のエレン・バーキン、放送関係の技術屋役でジャック・ブラック、ギルの元相棒役に『遊星からの物体X』(82)でバケモノになっちゃったチャールズ・ハラハンなど、有名どころの俳優が総出演。

オリジナル・スコア作曲はハンス・ジマー。ギルが「大のローリング・ストーンズ好き」という設定なので、劇中はストーンズの音楽ガンガン!…なのですが、権利関係の都合でサントラ盤には未収録。それだけならまだいいのですが(よくないけど)、その他にも劇中仕様曲がサントラに入ってなくて、その代わりに未使用曲がボーナストラックに入ってたりして、実にありがた迷惑な仕様のアルバムになってます。そういやこの時期にTVT Recordsから出たサントラはこういうのが多かったっけ。

というわけで、サントラ収録曲は以下の通り。

01: DID YOU MEAN WHAT YOU SAID / Sovory
02: LETTING GO / Terence Trent D’Arby
03: UNSTOPPABLE / Mic Geronimo (未使用曲)
04: HYMN OF THE BIG WHEEL / Massive Attack
05: (LET ME UP) I’VE HAD ENOUGH / Kenny Wayne Shepherd
06: LITTLE BOB / Black Grape
07: THE BORDER SONG (HOLY MOSES) / Raymond Myles (未使用曲)
08: WHAT’S GOIN’ DOWN / Honky
09: DELIVER ME / Foreskin 500
10: FOREVER BALLIN’ / Johnny “J” And Big Syke
11: I’M DA MAN / Jeune (未使用曲)
12: SACRIFICE / Hans Zimmer (オリジナル・スコア・メドレー)

ちなみに02はジマー作曲のメインテーマにテレンス・トレント・ダービーが歌詞をつけて歌ったものです。
ジマーのスコアメドレーは19分くらいあります。
ギルの狂気を表現した陰鬱なエレクトロ・スコアがスリリングでいい感じ。

では早速未収録曲を補完して、俺ジナルなサントラを作りましょう。

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CORIOLANUS -英雄の証明-

coriolanus

シェイクスピア悲劇『コリオレイナス』の舞台を現代の政情不安な小国(たぶん東欧のイメージ)に置き換えた、レイフ・ファインズ製作・監督・主演作…なんですが、それにしてもまぁ何でこんな邦題になったんだろう。

サミュエル・L・ジャクソンとトミー・リー・ジョーンズが共演した『英雄の条件』(00)という映画がありましたが、あれの二番煎じみたいな邦題になってしまいました。映画本編を観た感じでは「無愛想で愚直な”英雄”(=ファインズ)が、腹に一物抱えた政治家の策略で国を追われ、やがて敵国に寝返って祖国への復讐を企む」というストーリーなので、”英雄の証明”とはちょっとテーマが違うんじゃないかという気がする。まぁ『英雄の条件』ってのもピントのズレた邦題だなーと思いましたが。

というわけで、ここでは『コリオレイナス』と表記させて頂きます。

シェイクスピア劇で上映時間が123分と聞いた時は、もっと冗長な内容なんじゃないかという印象でしたが、予想に反して一気に観られました。脚色がうまいのかな。まさかシェイクスピア劇でコンバット・シューティングが見られるとは思いませんでした。撮影監督が『ハート・ロッカー』(08)のバリー・アクロイドという事もあって、市街戦もなかなかの迫力。ファインズの演出力もさることながら、スタッフの人選もなかなかの目利きです。

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ジェフ・ダナ名作選 / バイオハザードII アポカリプス(2004)

resident evil 2

『ケルティック・ロマンス』のアーティスト、マイケル・ダナ&ジェフ・ダナのフィルモグラフィーを振り返る不定期連載企画。

今回はジェフの作品から、ポール・W・S・アンダーソン監督&ミラ・ジョヴォヴィッチ主演『バイオハザード』シリーズの2作目、『バイオハザードII アポカリプス』(04)をご紹介します。

有名ゲームソフトの映画化、と言っても映画版のバイオハザードは独自のストーリーを展開しているため、忠実な映画化とは言い難いものがあります。が、しかし。この『バイオII』はシリーズ中最も再現度が高い要素があります。それは登場キャラクター。さらに言うならジル・バレンタイン。

何と言っても、シエンナ・ギロリー扮するジル・バレンタインのコスプレが最高なのですよ。ゲーム版『バイオIII』のコスチュームを完璧に着こなしてます。よくこれだけイメージがぴったりの女優さんを探してきたもんだ。映画版『バイオII』の真のヒロインはジルといっても過言ではないでしょう。この映画はシエンナジルの事だけで語り尽くせます(ヒドい言い方)。

しかし肝心の映画本編…というか、格闘アクションの見せ方がイマイチなのが残念。監督のアレクサンダー・ウィットは『ハンニバル』(01)とか『ボーン・アイデンティティー』(02)の第二班撮影監督をやっていた人(この映画の後、『ワールド・オブ・ライズ』(08)の撮影監督に抜擢されます)なので、長編映画監督としての手腕はまだまだだったのでしょう。その点、続編の『バイオハザードIII』(07)はベテランB級アクション監督のラッセル・マルケイだったから、映像にも一種のケレン味というかメリハリがあったような気がします。

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『THE GREY 凍える太陽』(音楽について)

the grey

『THE GREY 凍える太陽』(11)はリドリー&トニー・スコットの製作会社「スコット・フリー」の作品という事で、音楽担当は『プロヴァンスの贈りもの』(06)以来リドリーお気に入りの作曲家となったマーク・ストレイテンフェルドが起用される事になりました。

ジョー・カーナハン自身はクリフ・マルチネス、クリント・マンセル、アラン・シルヴェストリと毎回違う作曲家と組んでいるので、スコアにはそれほどこだわりがないのか、あえていろんな作曲家と仕事をしてみたいと思っているのか、まぁそのどちらかなのでしょう。

もともとあまり自己主張が強くない音楽を書き下ろす人でしたが、今回は題材がこんな感じなので、ストレイテンフェルドの作風が功を奏しているというか、音数やメロディーをぐっと抑えた虚無感と寂寥感を感じさせるスコアを作り上げています。悲壮感を漂わせたテーマ曲”Writing The Letter”も結構耳に残るメロディーではないかと。「これからヤバい事が起こるぜぇ」という危うい空気感をバスサックスの音色で表現している点もなかなか手が込んでます。

というわけで、手堅い仕事をしているストレイテンフェルドではあるのですが、ハンス・ジマーのもとで下積みをした作曲家でありながら、個人的にはリモート・コントロール色が極めて薄い音楽を作る人という印象があります。

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