『THE GREY 凍える太陽』(音楽について)

the grey

『THE GREY 凍える太陽』(11)はリドリー&トニー・スコットの製作会社「スコット・フリー」の作品という事で、音楽担当は『プロヴァンスの贈りもの』(06)以来リドリーお気に入りの作曲家となったマーク・ストレイテンフェルドが起用される事になりました。

ジョー・カーナハン自身はクリフ・マルチネス、クリント・マンセル、アラン・シルヴェストリと毎回違う作曲家と組んでいるので、スコアにはそれほどこだわりがないのか、あえていろんな作曲家と仕事をしてみたいと思っているのか、まぁそのどちらかなのでしょう。

もともとあまり自己主張が強くない音楽を書き下ろす人でしたが、今回は題材がこんな感じなので、ストレイテンフェルドの作風が功を奏しているというか、音数やメロディーをぐっと抑えた虚無感と寂寥感を感じさせるスコアを作り上げています。悲壮感を漂わせたテーマ曲”Writing The Letter”も結構耳に残るメロディーではないかと。「これからヤバい事が起こるぜぇ」という危うい空気感をバスサックスの音色で表現している点もなかなか手が込んでます。

というわけで、手堅い仕事をしているストレイテンフェルドではあるのですが、ハンス・ジマーのもとで下積みをした作曲家でありながら、個人的にはリモート・コントロール色が極めて薄い音楽を作る人という印象があります。

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トニー・スコット追悼企画/『ドミノ』のサントラを補完してみる

週明け早々トニー・スコットが亡くなったというニュースを聞き、どうにも気が滅入って仕方がない。

「関係者でもないんだから、そこまで考え込む必要ないだろ」というお声もあるかと思いますが、ワタクシの大好きな監督のひとりだし、『ハンガー』(83)から『アンストッパブル』(10)まで監督作を全部見てきた事もあって、思い入れが深いぶん、喪失感も大きかったりするのです。

傍目にはコンスタントにヒット作を撮って、自分のスタイルを確立させて、兄弟で映画製作会社(スコット・フリー)を立ち上げて、そこでも手堅くヒット作を製作して順風満帆でやっていたように見えたのですが、きっと本人にしか分からない悩みがあったのでしょう。

たぶん、これからいろんな憶測やら情報やらが出てくると思いますが、個人的には必要以上にネタを追いかけず、あれこれ詮索しないようにしようと考えています。

そんなわけで、今回はトニー・スコット追悼の気持ちも込めて、2005年監督作品『ドミノ』のサントラを補完してみたいと思います。

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空飛ぶペンギン -Mr. Popper’s Penguins-

mr poppers penguins

うーん、遂にジム・キャリー主演のヒット作が日本でDVDスルーになる日が来てしまったか、と何とも複雑な心境になりつつDVDを鑑賞。

映画本編は結構面白かったんですけどねー。ファミリー向けゆえジム・キャリーのギャグの破壊力は通常より控えめですが、相変わらずヘンな一発芸を見せてくれるし(グッゲンハイム美術館でのシャンパン芸は必見)、ペンギンはカワイイし、「仕事熱心で家族を気にかけなくなったポッパーさんが、父親の形見であるペンギンを引き取って家族愛に目覚めていく」というお話もベタながらいい感じだし、手堅くまとまってる佳作だと思うのです。話としては『ライアーライアー』(97)のノリに近いかな。

動物ものはファミリー映画の定番ネタだし、それがペンギンともなればさらにキャッチーな題材になり得るし、ジム・キャリーの日本語吹替えもちゃんと山寺宏一氏が担当してるし、この際ファミリー層にターゲットを絞って日本語吹替え上映を多めにして(注:こんなこと書いてますが自分は断然字幕派です)、山寺さんを前面に出して、動物園とかロッテクールミントガムなんかとタイアップを組んで夏に劇場公開すればそこそこイケたんじゃないかなーと考えたりもします。

しかしペンギンの鳴き声があんなにやかましいとは知らなかった。
「ギエェェーーッ!」とかそんな感じの声でした。

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マイケル・ダナ名作選 / 秘密のかけら -Where The Truth Lies- (2005)

where the truth lies

『ケルティック・ロマンス』のアーティスト、マイケル・ダナ&ジェフ・ダナのフィルモグラフィーを振り返る不定期連載企画。

今回はマイケルの作品から、盟友アトム・エゴヤン監督の『秘密のかけら』(05)をご紹介します。

舞台は1972年のLA。新進気鋭の女性ジャーナリスト・カレン(アリソン・ローマン)が、50年代に絶大な人気を誇ったスタンダップ・コメディアン二人組「ラニー&ヴィンス」の伝記を執筆する過程で、彼らが関与したとされる女子大生殺人事件の真相に迫っていくエロティック・サスペンス。

セクシャルな一面ばかりが強調されている作品ですが(まぁ実際キワドイ描写が多いけど)、映画の終盤まで真犯人が分からないトリッキーな物語構成とか、ソフトフォーカスをかけて50年代ハリウッドをセクシャル&きらびやかに再現した映像とか、「酒・ドラッグ・女・マフィア」というショウビズ界の裏の顔を赤裸々に綴ったストーリーとか、なかなか見応えのある内容でした。「大人のためのサスペンス・ミステリー」という表現がぴったりかと。ネットリしたエロティシズムや暴力描写の見せ方に、どことなくブライアン・デ・パルマの初期作品を彷彿とさせるものもありました(ナイトクラブのシーンでは長回しの映像もあったし)。

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『ダークナイト ライジング』のサントラ盤ボーナストラックを検証する

the dark knight rises

おとといAmazonから『ダークナイト ライジング』(12)の輸入盤が届きました。
僕の場合、最終的に940円で買えてしまいました。

学生の頃だったら素直にこの事に喜んでいたと思うのですが、多少なりとも音楽関係の仕事に携わっていると、「輸入盤とはいえ、超大作のサントラが940円で買えちゃっていいのかなぁ…」という感じで、音楽業界の今後とか、円高ドル安をはじめとした経済情勢とかあれこれ考えてしまって、非常に複雑な心境です。

さて今回のサントラ盤、15曲で52分弱でした。

本編が2時間44分ある事、そして前作『ダークナイト』(08)のサントラ盤が収録時間73分強(特装版のDISC2は50分強)だった事を考えると、ボリューム的に何か物足りないという印象があります(音楽のクオリティは高水準なので、あくまで収録時間とか収録曲数的な話)。

が、しかし。どうやらこれはレーベル側も計算ずくの売り方のようで、アルバムをいろんな形態でリリースして、それぞれ違ったボーナストラックをつけて売ろうという計画らしい。

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