MOON 月に囚われた男

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遅ればせながら、あけましておめでとうございます。

昨年末に2010年のベストムービー的な事でも書こうと思っていたのですが、ずーーっと仕事をしていてタイミングを逸してしまったので、今年最初のブログで書いてみる事にしました。

去年観た映画で特によかったなぁ、と思ったのは

『インセプション』(10)
『クロッシング』(08)
『バッド・ルーテナント』(09)
『月に囚われた男』(09)

の4本。この中からひとつ選ぶとしたら、やっぱり低予算でハイクオリティなSF映画を作り上げた『月に囚われた男』で決まりかな、と。

「月の裏側でたった一人でヘリウム3の採掘作業をしている男が、もう一人の自分と対面する」という内容を聞いた時、理屈っぽい映画なのではないかと思ったのですが、全然そんな事なかった。メッセージ性とエンターテインメント性、そして社会風刺のバランスがすごくよく取れた良作。例えるなら、星新一の短編SF小説のような雰囲気を持った映画です。

主人公サム・ベル(サム・ロックウェル)がなぜもう一人の自分と対面する事になったのか、というカラクリは映画の中盤ぐらいで分かってしまうのですが、この映画の場合、重要なのはそこではなかったんですね。自己の探求。経費削減・効率化の名目のもと、末端の労働者に過酷な仕事を強いる大企業の実態。甘んじてそれを受け入れなければならない労働者の悲哀。行き過ぎたテクノロジーの発達への警鐘。作り手が伝えたかったのはむしろこういったテーマだったのではないかと。「契約期間3年」という時間は何を意味するのか? これがやりきれなくて泣けるんだ。

事件の真相は、是非本編をご覧になってご確認下さい。オススメです。

普通、こういった映画に登場する「もう一人の自分」や「人工知能/ロボット」といったキャラクターは、主人公と敵対するケースが多いのですが、この映画は違いました。感情をぶつけ合う事で、互いの距離を縮めていく(自分自身を知る)サム1号と2号のやり取りも血の通った人間ドラマとして成立しているし(一人二役を演じたロックウェルの演技が秀逸)、企業とグルかと思いきや、人間以上に人間くさい行動を取ってくれるロボット”ガーティ”(声:ケヴィン・スペイシー)の存在も愛おしくて泣けてくる。モニターにその時の気分に応じた「顔」が表示されるのがなかなかカワイイのです。

音楽はダーレン・アロノフスキー作品でおなじみのクリント・マンセル。製作費500万ドル、撮影期間33日、登場人物ほぼ1名、場所は月面基地のみという超ミニマル環境で作られた映画本編とマッチした、ポスト・ロック調のミニマル・スコアを書き下ろしています。もともとミニマル・ミュージックに定評のある作曲家だけに、実に的を射た人選といえるでしょう。

メインテーマはCD1曲目の”Welcome to Lunar Industries”なのですが、「サム・ベル 哀しみのテーマ」とでも言うべきピアノ曲”Memories (Someone We’ll Never Know)”の悲しくも美しい旋律に心奪われます。サムが「家に帰りたい・・・」と泣き崩れるシーンは、音楽の演出も相まって、いつ見ても切なくなります。曲の後半から流れてくるチェロの旋律がまたいいんだな、これが。

すでにあちこちで語られている通り、本作の監督ダンカン・ジョーンズはあのデヴィッド・ボウイの息子さんです。「親の七光り・・・」なんて言葉が浮かんでくる方もいるかと思いますが、この人は本当に才能ありそうな気がします。『ガタカ』(97)のアンドリュー・ニコルのような路線に行ってくれると嬉しい。

ビッグバジェットのアメコミ映画とか撮らせて、せっかくの才能をツブさないでもらいたいところです。

 

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