2019年 ごく私的サントラベスト10

映画音楽ライターとしてサントラ盤に音楽解説を書かせて頂いて約16年。
映画情報サイトBANGER!!!に映画音楽コラムを書かせて頂いて1年ちょっと。

そんなワタクシが2019年に観た映画のサントラベスト10を選んだら、こんな感じになりましたというお話。 前置きはこのぐらいにして早速行っちゃいます。

1.さらば愛しきアウトロー

この映画のサントラは音楽解説の仕事で何回も聴きましたが、
それ以前から自前で購入して繰り返し聴いていました。
ダニエル・ハートの音楽(スコア)が素晴らしい。
全曲メロディアスで”雰囲気作り系”の漠としたスコアが1曲もない。
これはまさに、ジェシー・ハリスがインタビューで語っていた「(往年の名作映画のような)俳優の演技と同じくらいとても重要な位置にある音楽」ではないかと。
既製曲(歌モノ)の選曲もよかったし、スコアとのバランスもよかったですね。

以前のブログ記事:
『さらば愛しきアウトロー』のジャズ・スコアは、ロバート・レッドフォードを最高にカッコよく、チャーミングに見せる音楽だと思う。 https://www.marigold-mu.net/blog/archives/9939

BANGER!!!のコラム:
意思は貫くが、運命には逆らわない レッドフォード流“アウトローの美学”と“ジャズ”『さらば愛しきアウトロー』 | BANGER!!!
https://www.banger.jp/movie/13646/ #BANGER

2. アド・アストラ

同じ宇宙ものではジャスティン・ハーウィッツの『ファースト・マン』もよかったのですが、『アド・アストラ』を観た後はマックス・リヒターとローン・バルフの音楽のほうが断然お気に入りになりました。
当初は「また音楽が『ゴースト・イン・ザ・シェル』の時みたいになったけど大丈夫かな…」と思いましたが、リヒターのスコアはちゃんとリヒターらしさが出ていたし、バルフのスコアも『ロンドン・ヒート』の時のようなアンビエント系のサウンドをオーケストラで聴かせていて、両者の持ち味を出しつつ、全体的に統一感のあるスコアに仕上がっていたように思います。
サントラがCDプレス盤で発売されてくれて本当によかった。

以前のブログ記事:
『アド・アストラ』と『ジョーカー』のサウンドトラックアルバムリリース状況 https://www.marigold-mu.net/blog/archives/10103

3. ブレス あの波の向こうへ

ハリー・グレッグソン=ウィリアムズが青春ドラマの音楽を担当、しかも題材はサーフィンでサイモン・ベイカーの初監督作品。
これらの要素が見事な融合を果たした隠れた傑作ではないかと。
リチャード・トネッティ・カルテットの演奏を活かした「音数少なめ」のサウンドと、要所で流れるメインテーマのメロディとそのバリエーション。美しい海の映像と調和したアンビエント・スコア。HGW好きならマストバイのアルバムです。

以前のブログ記事:
作曲家ハリー・グレッグソン=ウィリアムズの魅力が凝縮された 『ブレス あの波の向こうへ』のメロディックな音楽 https://www.marigold-mu.net/blog/archives/9963

BANGER!!!のコラム:
ほろ苦い青春映画 初めて全力でひとつの事に挑んだ青年の成長と挫折を壮大な映像・音楽で描く『ブレス あの波の向こうへ』 | BANGER!!!
https://www.banger.jp/movie/14529/ #BANGER

4. ビール・ストリートの恋人たち

『ムーンライト』で実験的かつ野心的なスコアを作曲したニコラス・ブリテルが、バリー・ジェンキンス監督作でまたしても傑作スコアを作り上げてくれました。
今回は「管楽器とジャズ、ストリングスで様々な”愛”を描く」というのがコンセプトでした。
『ムーンライト』に比べると斬新なサウンドではないけれども、それゆえ耳馴染みのよい美メロを堪能出来る、万人向けのアルバムに仕上がっています。

以前のブログ記事:
『ビール・ストリートの恋人たち』のニコラス・ブリテルの音楽は、ストリングスと管楽器で様々な愛の形を描く。 https://www.marigold-mu.net/blog/archives/9742

BANGER!!!のコラム:
圧倒的な映像美と詩情溢れる音楽『ムーンライト』&『ビール・ストリートの恋人たち』 | BANGER!!!
https://www.banger.jp/movie/5402/ #BANGER

5. ジョン・ウィック:パラベラム

メインテーマのバリエーションの聴かせ方とか、
ここぞという場面でのヴィヴァルディの「夏」「冬」の使い方、
爆音系のサウンドの裏に隠された緻密なアレンジなど、
「同じ作曲家が継続してシリーズ物の音楽を担当してくれる有難み」を実感出来るアルバムでした。詳しくは以前のブログやBANGER!!!のコラムにて。

以前のブログ記事:
『ジョン・ウィック:パラベラム』サントラ盤の聴きどころをざっくりご紹介してみる https://www.marigold-mu.net/blog/archives/10083

BANGER!!!のコラム:
爆音スコア!業界屈指のロックな映画音楽家のサウンドがより激しく芸術的に進化『ジョン・ウィック:パラベラム』 | BANGER!!!
https://www.banger.jp/movie/19027/ #BANGER
『ジョン・ウィック』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の映画音楽家で、マリリン・マンソンのツアーにも参加したタイラー・ベイツって? | BANGER!!!
https://www.banger.jp/movie/16484/ #BANGER

6. ジョーカー

「2010年代を代表する”鬱スコア”の傑作誕生!」といったところでしょうか。
聴いていると憂鬱になるどころか、段々おかしな気分になってくるヒルドゥル・グドナドッティルの実験的なサウンドがクセになる。
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』の音楽もスゴかったですが、これもかなり”攻め”のスコアではないかと。
彼女が演奏するカスタム楽器”Halldorophone”については、以前のブログ記事をご参照下さい。

以前のブログ記事:
『ジョーカー』のCDプレス盤サントラが届いたという話。 https://www.marigold-mu.net/blog/archives/8812

7. ヒックとドラゴン 聖地への冒険

ジョン・パウエルの『ヒクドラ』シリーズの音楽は、もはやジョン・ウィリアムズの『スター・ウォーズ』シリーズの音楽の領域に達したのではないか――そう思ってしまうほど、テーマ曲(=モティーフ)の使い方とバリエーションの聴かせ方が巧い。
個人的には1作目のパウエルのスコアがシンプルに纏まっていて一番好きなのですが、10種類前後のテーマ曲やリフが使われているにもかかわらず、スコアがゴチャゴチャにならずに”交通整理”されている今回の『聖地への冒険』のスコアも「やっぱりスゴイなぁ」と思って聴いてしまいます。パウエルのアレンジ能力の高さが実感出来るアルバムです。

以前のブログ記事:
9年来の宿願叶う――『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』サントラ盤の音楽解説のお仕事 https://www.marigold-mu.net/blog/archives/10236

BANGER!!!のコラム:
『ボーン・アイデンティティー』作曲家が音楽で人間とドラゴンの絆を彩る『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』 | BANGER!!!
https://www.banger.jp/anime/24833/ #BANGER

8. ベラのワンダフル・ホーム

『僕のワンダフル・わんこ』シリーズの音楽担当に、「ケルティック・ロマンス」の我らがマイケル・ダナさんが光臨!…というわけで、個人的にものすごく嬉しかった作品。
レイチェル・ポートマン、マーク・アイシャムに負けないハートフルなスコアを聴かせてくれました。国内盤が出なかったのが誠に残念。

以前のブログ記事:
最近買ったサントラ盤(『プライベート・ウォー』『THE INFORMER/三秒間の死角』『ベラのワンダフル・ホーム』) https://www.marigold-mu.net/blog/archives/10052

9. スノー・ロワイヤル

「ジョージ・フェントンが『ヘブンズ・プリズナー』以来の本格的なアクション・スコアを聴かせてくれるのかな?」と思ったら、先にサントラを聴いところ妙にトボけた音楽で「え…コレでいいの?」と困惑した問題作。
ところが映画本編を観たらフェントンの音楽が見事にハマっていて、「ああ、全部計算ずくの音楽演出だったのね」と納得した次第。それに気づいてからのこの音楽の不思議な味わいは、一度知ったらやめられない止まらない。

以前のブログ記事:
リーアム・ニーソン主演のアクション映画にジョージ・フェントンの音楽だと…!? 『スノー・ロワイヤル』はその意外な組み合わせが面白い! https://www.marigold-mu.net/blog/archives/9903

BANGER!!!のコラム:
リーアム・ニーソンの“必殺除雪人” バイオレンスと笑いの交錯をサントラが引き立てる『スノー・ロワイヤル』 | BANGER!!!
https://www.banger.jp/movie/11665/ #BANGER

10. レプリカズ

『レプリカズ』は日本語公式サイトさんも「キアヌ主演のB級イロモノ映画」みたいな宣伝の仕方をしていましたが、ワタクシ自身は全くそういう捉え方をしていなくて、「難しいテーマを簡単に描いちゃってるけど、結構深い映画なんじゃないかな」と思ってます。
…というのも、当方の予想以上にメロディがきれいな音楽で、作曲家のマーク・キリアン自身が「この映画は家族の物語」と断言していたから。
音楽が映画のクオリティ向上に大きく貢献していた作品だったのではないかなと思います。

以前のブログ記事:
キアヌ暴走!…しかし「『レプリカズ』は家族の物語」と作曲家のマーク・キリアン氏は語った。 https://www.marigold-mu.net/blog/archives/9859

BANGER!!!のコラム:
死んだ家族はクローン再生を望んでいたか? キアヌが暴走脳科学者に 科学vs.倫理『レプリカズ』 | BANGER!!!
https://www.banger.jp/movie/9540/ #BANGER

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