シンフォニックでスタイリッシュ、そしてメロディアスな『キングスマン』の音楽

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Kingsman: The Secret Service – Original Motion Picture Score (amazon)
Kingsman: The Secret Service – Original Motion Picture Score (TOWER RECORDS)

9月は『ピクセル』(15)と『キングスマン』(14)がほぼ同時公開ということで、図らずもヘンリー・ジャックマンの音楽担当作品がまとめて公開されることになりました。

マシュー・ヴォーンの監督作では『レイヤー・ケーキ』(04)が一番好きで、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(11)も結構よかったかなと思うのですが、『キック・アス』(10)は正直なところ周囲の盛り上がりほど作品に乗れなかった部分が多々ありまして、特にヒットガールに関してはハートを奪われるどころか無双が凄絶で恐ろしさすら感じた始末でした。

なので今回の“キレッキレ”なるキャッチコピーが踊る『キングスマン』はどうかなーと思ったのですが、まあ思っていたよりは面白かったかなと。相変わらず劇中かなりハデに殺生をやってくれますが、当方の想像よりも血生臭くない見せ方をしていたのでこれならいいんじゃないかと。自分の感覚で例えるなら『ブレイド』(98)のバンパイア消滅描写に近い感じ。

作り手側のスタンスも比較的フェアというか何というか、階級意識(エリート意識)の強い人とか、政界・財界のセレブな人たちとか、ロンドン下町のチンピラとか、キリスト教原理主義者とか、スマホ中毒の現代人とか、過激な環境保護論者とか、そういう人たちを等しく皮肉りまくっている。
そんな中で大殺生ショーを繰り広げた結果、最後に“Manners Maketh Man”というテーマに帰結するという屈折したユーモアセンスが刺さる人には刺さるのではないかと。

というわけで本編の感想はこのへんにして、『キングスマン』の音楽について書かせて頂きます。


オリジナル・スコアの作曲はヘンリー・ジャックマンとマシュー・マージソンの共同名義。
ジャックマンは『キック・アス』からの”チーム・ヴォーン”メンバーですが、マージソンは『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』(13)からの参加(ヴォーン監督はもうアイラン・エシュケリとは組まなくなったんだな…)。

映画本編が『007』へのオマージュ的な内容なので、音楽もモロに007を意識した感じのサウンドになってます。最近の007映画ではなく、ジョン・バリーが音楽を担当していた頃のあの雰囲気。
シンフォニックで、グラマラスで、ちょいと遊び心なんかも感じられたあの音楽。
リモート・コントロール組のアーティストの皆さんは、音圧高めのミッチリ詰まった音を鳴らす傾向が強いのですが、今回の『キングスマン』はいい意味で音の”隙間”が感じられるアレンジになっていて、それが「古き良き007映画のサウンド」のムードを醸し出しているように思います。

楽曲構成も非常に分かりやすい設計になっていて、基本的に「キングスマンのテーマ」(アルバム1曲目の”Manners Maketh Man”)と、「ヴァレンタインのテーマ」の2つで成り立っている感じ。
ヴァレンタインというのはサミュエル・L・ジャクソン扮する今回のヴィランで、アルバム3曲目の”Valentine”でそのメロディーが聴けます。

『ピクセル』の時もそうでしたが、ジャックマンは『キングスマン』でもハデにメインテーマを鳴らしてくれるので、映画を見終わった頃にはメインテーマのメロディーがすっかり耳に馴染んでいる感じ。
特にスカイダイビングのシーンの曲(アルバム7曲目)が最高。
スカイダイビング・シーンの音楽でこんなに胸が熱くなったのは、マーク・アイシャムの『ハートブルー』(91)以来なんじゃないかと思ったり。

マシュー・ヴォーン映画の音楽は歌モノに話題が行きがちですが、『キングスマン』はオリジナル・スコアもクオリティ高いですよ、というわけでオススメです。

で、その歌モノについては次回いろいろまとめて書かせて頂きます。

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